優秀な営業マンを課長に昇進させたら、個人の成績は相変わらず良いものの、チーム全体の売上が落ちてしまった。あるいは、管理職であるはずの彼らが深夜まで残業し、疲弊している姿をよく見かけるようになった。
もしあなたの会社で思い当たる節があるなら、プレイングマネージャーの運用方法を見直す時期に来ているのかもしれません。
この記事では、経営者が知っておきたいプレイングマネージャーのメリットとデメリット、そして彼らが潰れる前に打つべき具体的な対策について解説します。結論からお伝えすると、プレイングマネージャーを「便利な存在」として放置することは組織にとって非常に危険な行為です。彼らの役割を正しく理解し、適切なサポートを行うことが、企業成長の大きな鍵を握ります。
経営者が知るべきプレイングマネージャーの真実
経営者にとって、現場の最前線で数字を作りながら部下をまとめるプレイングマネージャーは、非常に頼もしい存在に見えるでしょう。人件費を抑えつつ、即戦力として現場を牽引してくれるからです。
しかし、その実態は「現場の実務」と「組織のマネジメント」という、相反するベクトルの業務に板挟みになっている過酷なポジションでもあります。個人の能力に依存したまま何の対策も打たずに放置すれば、いずれ「マネジメント不全」や「本人の心身の限界による離職」という最悪のシナリオを引き起こしかねません。
プレイングマネージャー制度を成功させるためには、彼らの自己犠牲の上に成り立つ組織構造から脱却する必要があります。経営者が彼らの苦悩を理解し、業務量のコントロールや評価制度の見直しを行うことこそが、持続可能な組織作りの第一歩となるのです。
プレイングマネージャーとは?専任マネージャーとの役割の違い
そもそも、プレイングマネージャーとはどのような役割を担っているのでしょうか。一般的な専任マネージャーとの違いを理解することは、自社の組織課題を浮き彫りにするための重要なステップとなります。
経営層が彼らにどのような期待を寄せており、現場でどのようなギャップが生まれているのかを紐解いていきましょう。
実務と管理を兼任するハイブリッドな役割
プレイングマネージャーとは、自らも現場のプレイヤーとして実務をこなしながら、同時にマネージャーとしてチームの目標達成や部下の育成を行う役職を指します。いわば、二足の草鞋を履くハイブリッドな存在と言えるでしょう。
一方の専任マネージャーは、自分自身で実務の数字を持つことはありません。彼らの仕事はあくまで「チームの成果の最大化」であり、部下が働きやすい環境を整えたり、業務の進捗を管理したりすることに特化しています。
この違いは非常に大きく、求められる思考回路も異なります。プレイヤーには「自分がどうやって成果を出すか」という視点が求められますが、マネージャーには「他者を通じてどうやって成果を出すか」という視点が必要です。プレイングマネージャーは、この真逆の思考を1日のうちに何度も切り替えながら働くことを強いられているわけです。
なぜ今、プレイングマネージャーが求められているのか?
多くの企業でプレイングマネージャーが採用されている背景には、深刻な労働人口の減少と、スピーディーな意思決定が求められるビジネス環境の変化があります。
限られた人員で目標を達成しなければならない中小企業やベンチャー企業では、マネジメントだけを行う専任のポストを用意する余裕がないケースも珍しくありません。また、現場の状況がめまぐるしく変わる現代において、現場の第一線に立っている人間がそのまま意思決定を下した方が、はるかに効率的だという側面も持ち合わせています。
事実、国内のマネージャーの大部分がプレイングマネージャーとして働いているというデータも存在します。もはや「マネージャー=プレイングマネージャー」という図式が、日本のビジネスシーンにおけるスタンダードになりつつあると言っても過言ではないでしょう。
経営者視点で見るプレイングマネージャーのメリット
プレイングマネージャー制度がこれほどまでに普及しているのには、当然ながら企業側に大きなメリットがあるからです。経営者の視点から見た際、彼らがいかに魅力的な存在であるかを確認しておきましょう。
単なるコスト削減だけでなく、組織の活性化という観点でもプラスの要素をもたらしてくれます。
人件費の最適化とコスト削減効果
経営者にとって最も直接的なメリットは、人件費の最適化に繋がるという点です。優秀なプレイヤーを管理職に昇格させ、引き続き現場の最前線で数字を作ってもらうことで、新たに専任の管理職を採用したり配置したりするコストを削減できます。
特に、成長過程にある企業やリソースが限られている企業において、プレイヤーとしての売上貢献とマネージャーとしての管理業務を一人でこなしてくれる人材は、非常にコストパフォーマンスが高い存在として重宝される傾向にあります。
少ない人数で最大限の利益を生み出すための合理的な組織形態として、プレイングマネージャーは非常に有効な選択肢となり得るのです。
現場のリアルな声を経営・マネジメントに直結できる
プレイングマネージャーは、日々顧客と接し、現場の最前線で実務をこなしています。そのため、現場で起きている些細な変化や、顧客のリアルな声、競合他社の動向などを肌感覚でいち早く察知することが可能です。
専任マネージャーの場合、どうしても現場の情報は部下からの報告という「二次情報」になりがちで、タイムラグや認識のズレが生じるリスクがあります。しかし、プレイングマネージャーであれば、自身が一次情報の取得者となるため、現場の課題をそのままスピーディーに経営層へ吸い上げたり、チームの戦略に落とし込んだりすることができます。
この「現場との距離の近さ」は、変化の激しい市場において迅速な方針転換を行うための強力な武器となるでしょう。
プレイヤーとしての背中を見せ、部下のモチベーションを向上させる
「口先だけで指示を出す上司」と「自ら先頭に立って困難な課題を突破してみせる上司」、部下がどちらに付いていきたいと思うかは明白でしょう。
プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての圧倒的な実力や仕事に向き合う姿勢を、背中で直接部下に見せることができます。これは、部下に対する何よりの説得力となり、チーム全体のモチベーションや士気を高める効果を持っています。
また、部下が実務で壁にぶつかった際にも、プレイングマネージャーは最新の現場の感覚を持っているため、より実践的で的確なアドバイスを送ることが可能です。「この人から学びたい」「この人のようになりたい」という憧れを生み出しやすいのも、大きなメリットの一つだと言えます。
放置は危険!プレイングマネージャーの深刻なデメリットと限界
ここまでメリットを並べましたが、経営者はそれ以上に「デメリット」と「限界」に目を向ける必要があります。なぜなら、プレイングマネージャーが抱える闇は非常に深く、放置すれば組織を内側から崩壊させる危険性を孕んでいるからです。
彼らに頼りきりの状態が続いている企業は、以下のリスクがすでに顕在化していないか、直ちにチェックしてください。
業務過多による疲弊・バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスク
プレイングマネージャー最大のデメリットは、圧倒的な業務過多に陥りやすい点です。自分自身の営業目標やタスクをこなしながら、部下の相談に乗り、トラブル対応を行い、経営層への報告資料を作成する。これらを通常の業務時間内に収めることは至難の業です。
結果として、日中はプレイヤーとしての業務や打ち合わせに追われ、定時後や休日にマネジメント業務や事務作業をこなすという悪循環に陥りがちです。慢性的な長時間労働は心身を削り、ある日突然糸が切れたように「バーンアウト(燃え尽き症候群)」を引き起こして離職してしまうケースが後を絶ちません。
優秀な人材であるほど責任感が強く、一人で抱え込んでしまう傾向があるため、経営者が「彼なら大丈夫だろう」と高を括るのは非常に危険な判断となります。
参考:時間配分の5タイプに見る管理職の役割変革(リクルートマネジメントソリューションズ)
プレイヤー業務を優先し、マネジメントが疎かになる
人間は、より成果が分かりやすく、自分の得意な業務を優先してしまう生き物です。プレイングマネージャーに抜擢される人材は、もともと「優秀なプレイヤー」であった人がほとんどです。
そのため、自分の目標数字が未達になりそうな時や、困難な課題に直面した際、彼らはマネジメントよりも「自分が動いてなんとかする」というプレイヤーとしての解決策を選びがちです。その結果、部下の育成や組織課題の根本的な解決が後回しになり、いつまで経ってもチーム全体の底上げがされないという事態に陥ります。
「プレイングマネージャーが一番忙しく立ち回っているのに、チームとしての業績は伸び悩んでいる」という現象は、まさにマネジメントが機能不全を起こしている典型的なサインと言えるでしょう。
プレイングマネージャー自身の育成や適正な評価が難しくなる
経営者から見て、プレイングマネージャーをどう評価すべきか迷った経験はないでしょうか。プレイヤーとして大きな売上を上げたものの、部下の離職率が高い場合、彼を「優秀」と評価すべきか、それとも「失格」と評価すべきか。
評価基準が曖昧なままだと、彼ら自身も「自分のどこが評価されているのか」「何を改善すべきなのか」が分からず、モチベーションを低下させてしまいます。また、プレイングマネージャーの上にさらに指導できる立場の人間がいないケースも多く、彼ら自身のスキルアップやキャリア形成が頭打ちになってしまうリスクも存在します。
プレイヤーとしての能力は高くても、マネジメント手法については「自己流」でやってきた人が多いため、適切なフィードバックと教育の機会を提供しなければ、組織の成長はそこでストップしてしまうのです。
【比較表】プレイングマネージャー vs 専任マネージャー
ここで、経営者が状況を整理しやすいように、プレイングマネージャーと専任マネージャーの違いを比較表にまとめました。自社のフェーズや組織の課題に合わせて、どちらの比重を増やすべきかを検討する材料としてお役立てください。
| 比較項目 | プレイングマネージャー | 専任マネージャー |
|---|---|---|
| 主な役割 | 自身の実務遂行 + チームの管理・育成 | チームの成果最大化と組織環境の整備 |
| 目標の比重 | 個人目標とチーム目標の双方を追う | チーム全体の目標達成のみに責任を持つ |
| メリット | ・人件費の抑制 ・現場の情報を素早く経営に直結できる ・背中で見せて部下の士気を高めやすい | ・マネジメントや組織課題の解決に専念できる ・中長期的な人材育成が可能 ・属人化を防ぎ組織の仕組み化が進む |
| デメリット | ・業務過多により疲弊、離職のリスクが高い ・マネジメントが後回しになりがち ・評価基準が曖昧になりやすい | ・新たにポストと人件費が必要になる ・現場のリアルな最新情報から遠ざかりやすい ・実務の即戦力が一人減る |
| 適したフェーズ | 創業期〜成長初期、少数精鋭のチーム | 成長中期〜安定期、組織の拡大・仕組み化を目指すフェーズ |
この表からも分かる通り、どちらが優れているというわけではありません。重要なのは、現在の組織が直面している課題に対して、適切なマネジメントスタイルを選択することに尽きます。
プレイングマネージャーが「潰れる」前に経営者がすべき対策
プレイングマネージャーのデメリットと限界を理解した上で、彼らを「使い捨ての駒」にしないために、経営者はどのような対策を講じるべきでしょうか。
彼らが心身ともに健康な状態で、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることは、経営者としての重大な責任です。ここでは、すぐに取り組むべき3つの具体的な対策を解説します。
業務量の適切なコントロールと権限委譲の徹底
まず最初に行うべきは、彼らが抱えている業務の棚卸しと、適切な業務量のコントロールです。ある調査によれば、プレイングマネージャーがプレイヤー業務に割く割合が「30%」を超えると、マネジメント機能が著しく低下するという結果が出ています。
経営者は彼らと対話し、「絶対に彼らがやらなければならない業務」と「部下に任せるべき業務」を明確に切り分けるよう指導してください。権限委譲を進めることは、プレイングマネージャーの負担を減らすだけでなく、仕事を任された部下の成長機会を創出することにも繋がります。
最初は部下のミスをカバーする手間が増えるかもしれませんが、中長期的に見れば組織全体の生産性を向上させるための不可欠なプロセスとなります。
プレイヤーとしての目標とマネージャーとしての目標を切り分けた評価制度
評価基準の曖昧さを解消するために、評価制度の抜本的な見直しが求められます。単に「個人の売上」と「チームの売上」を合算して評価するのではなく、プレイヤーとしての成果指標と、マネージャーとしての行動指標を明確に分けて評価する仕組みを構築しましょう。
例えば、プレイヤーとしての業績達成率を50%、マネジメント行動(部下との1on1の実施回数、チームの離職率低下、部下のスキルアップ度合いなど)を50%といった具合に、会社として「マネジメント業務も等しく重要である」というメッセージを数字で示します。
これにより、プレイングマネージャーは「マネジメントに時間を使っても正当に評価される」という安心感を得ることができ、部下の育成にも積極的に取り組むようになるはずです。
マネジメントスキル向上のための研修・サポート体制の構築
「名プレイヤー、必ずしも名監督にあらず」という言葉があるように、実務の能力が高いからといって、マネジメント能力が自然に身につくわけではありません。彼らを孤立させないためのサポート体制が急務です。
経営者は、彼らが「マネジメントの基礎」を学ぶための外部研修を導入したり、経営陣との定期的なメンタリングの場を設けたりといった投資を惜しんではいけません。彼らがマネジメントの壁にぶつかった時に、気軽に相談できる相手や、解決のためのフレームワークを提供することが重要です。
プレイングマネージャーを「昇格させて終わり」にするのではなく、そこからが真の育成のスタートなのだという認識を持つことが、組織を強くするための秘訣となります。
まとめ:プレイングマネージャーを活かすも殺すも経営者次第
プレイングマネージャーは、現場の実務と組織の管理という過酷な二面性を持った役職です。コスト削減や現場感覚の維持というメリットがある一方で、業務過多による疲弊やマネジメント不足といった深刻なデメリットを抱えています。
優秀な人材が「プレイングマネージャー」という重圧に押し潰されてしまう前に、経営者は彼らの業務割合をコントロールし、明確な評価制度を設け、マネジメントスキルを磨くためのサポートを行わなければなりません。
彼らが本来持っているポテンシャルを最大限に引き出し、組織全体の成長エンジンへと昇華させることができるかどうかは、すべて経営者の理解と具体的な行動にかかっています。まずは彼らの声に耳を傾け、業務の棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。
