「働き方改革」や「人手不足」が叫ばれる昨今、どの企業でも最優先課題となっているのが「労働生産性の向上」です。
しかし、現場では「単に作業スピードを上げること」や「長時間労働でカバーすること」だと誤解されているケースが少なくありません。本来の生産性向上とは、「より少ない労力(時間・人数)で、より大きな成果(付加価値)を生み出すこと」を指します。
この記事では、言葉の正しい定義から具体的な計算式、G7で最下位とされる日本の現状、そして明日から実践できる向上施策までを網羅的に解説します。自社の課題解決のヒントとしてお役立てください。
労働生産性の意味とは?言葉の定義をわかりやすく解説
労働生産性とは、従業員1人あたり、あるいは労働1時間あたりで「どれだけの成果を生み出したか」を数値化した指標です。投入した資源(労働力)に対して、産出された成果(生産量や付加価値)が大きければ大きいほど、生産性が高い状態といえます。
企業が利益を確保しつつ従業員の給与を上げるためには、この指標の改善が欠かせません。一般的に、労働生産性は成果の種類によって「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分類されます。
「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の違い
2つの生産性は、「何を成果とするか」が異なります。製造現場などで使われる「個数・重量」を基準にするのが物的労働生産性、金額的な価値(粗利など)を基準にするのが付加価値労働生産性です。
多くのビジネスパーソンやホワイトカラーの現場で「生産性」という場合、後者の「付加価値労働生産性」を指すことがほとんどです。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
| 種類 | 成果の対象(Output) | 主な活用シーン |
|---|---|---|
| 物的労働生産性 | 生産量、大きさ、重さ、個数など (物理的な量) | 工場、建設現場、運送業など 「効率よくモノを作れているか」を測る |
| 付加価値労働生産性 | 付加価値額 (粗利益、売上総利益など) | 小売、サービス、IT、オフィス業務全般 「効率よく利益を生めているか」を測る |
【図解なしでもわかる】労働生産性の計算式
自社の現状を把握するには、正しい計算式で数値を出す必要があります。基本となるのは「成果÷投入資源」というシンプルな割り算です。
ここでは、最も重要視される「付加価値労働生産性」の計算方法を中心に見ていきましょう。計算には「労働者数」で割る方法と、「労働時間」で割る方法の2パターンがあります。
労働生産性の基本計算式
基本的な計算式は以下の通りです。どちらの分母を使うかで、見えてくる課題が変わります。
1. 労働者1人あたりの生産性(従業員ベース)
長期的な人員配置や、組織全体のパフォーマンスを測る際に使われます。
労働生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数
2. 労働1時間あたりの生産性(時間ベース)
短時間勤務の社員が多い場合や、業務効率化の進捗を細かく測る際に適しています。
労働生産性 = 付加価値額 ÷ (従業員数 × 一人あたりの労働時間)
付加価値額の算出方法(控除法と加算法)
計算式の分子にある「付加価値額」をどう算出するかには、大きく分けて「控除法(中小企業庁方式)」と「加算法(日銀方式)」の2種類があります。
簡易的に計算したい場合は、売上から原価を引く「控除法」がよく使われます。
控除法:付加価値額 = 売上高 - 外部購入価値(原価・外注費など)
一方、より厳密に経営資源の配分を見たい場合は「加算法」を用います。
加算法:付加価値額 = 経常利益 + 人件費 + 賃借料 + 減価償却費 + 金融費用 + 租税公課
自社の目的に合わせ、継続して同じ算出方法を使って推移を見守ることが大切です。
日本の労働生産性はなぜ低い?最新データで見る現状
「日本は生産性が低い」というニュースを耳にしたことがある方は多いでしょう。実際のデータを見ると、その課題は長年解消されていないことがわかります。
特に少子高齢化が進む日本において、労働人口の減少をカバーするためには生産性の向上が急務です。ここでは公的機関が発表している最新データを基に、日本の立ち位置を確認します。
OECD加盟国・G7の中での日本の順位
公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2025」によると、2024年の日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル(購買力平価換算)でした。
これはOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中で28位という順位です。さらに主要先進7カ国(G7)の中では、データが比較可能な1970年以降、最下位が続いています。
米国やドイツなどの欧米諸国と比較すると、日本は「長い時間働いているのに、生み出している付加価値が少ない」という厳しい現実が浮き彫りになっています。
参考:日本の労働生産性の動向2025 | 公益財団法人 日本生産性本部
業種別・企業規模別の傾向
全体平均だけでなく、内訳を見るとさらに詳細な課題が見えてきます。一般的に、製造業(自動車産業など)は大企業を中心に生産性が高い傾向にありますが、サービス業や飲食・宿泊業は低い水準に留まっています。
また、企業規模による格差も顕著です。中小企業庁のデータによれば、大企業と中小企業の労働生産性には約2倍の開きがあります。日本企業の99.7%を占める中小企業の生産性底上げこそが、日本経済復活の鍵といえるでしょう。
参考:2024年版「中小企業白書」第3節 生産性 | 中小企業庁
企業の労働生産性を下げる3つの主な原因
なぜ、多くの日本企業で生産性が上がらないのでしょうか。精神論ではなく、構造的な問題として以下の3つの要因が挙げられます。
アナログ業務への固執とIT導入の遅れ
ハンコ文化や紙での稟議、手入力での転記作業など、デジタル化で省略できるはずの業務に多くの時間を割いているケースです。これを放置すると「付加価値を生まない作業時間」ばかりが増え、計算式の分母(労働時間)が大きくなってしまいます。
長時間労働と「働けば成果が出る」という思い込み
「残業している社員=頑張っている」という評価制度が残っている企業では、短時間で効率よく成果を出すインセンティブが働きません。だらだらと長く働くことは、分母(労働時間)を増やす行為そのものであり、結果として生産性を押し下げる最大の要因となります。
従業員のスキル不足と配置のミスマッチ
個人の能力に見合わない業務を任せていたり、教育体制が整っていなかったりする場合も生産性は低下します。特に、ITリテラシーの不足は深刻で、便利なツールを導入しても使いこなせず、かえって現場が混乱するという本末転倒な事態も起きています。
明日からできる!労働生産性を上げる5つの方法
課題を踏まえた上で、企業が取り組むべき具体的な施策を紹介します。これらは「計算式の分子(付加価値)を増やす」か「分母(コスト・時間)を減らす」かのいずれかに作用します。
業務の可視化とノンコア業務の削減
まずは「誰が、何に、どれくらいの時間を使っているか」を洗い出しましょう。その中から、自社の利益に直結しない「ノンコア業務(事務作業、移動、会議など)」を見極めます。
これらを削減(やめる)、標準化(マニュアル化)、あるいはアウトソーシングすることで、社員は利益を生む「コア業務」に集中できるようになります。
ITツール・システムの導入(DX推進)
アナログ業務をデジタルに置き換えることは、最も即効性のある施策です。例えば、経費精算システムや勤怠管理システム、チャットツール、RPA(ロボットによる自動化)などが挙げられます。
単なる導入で終わらせず、業務フローそのものを見直す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の視点を持つことが重要です。
従業員エンゲージメントの向上とスキルアップ支援
「やらされ仕事」では高いパフォーマンスは望めません。従業員が意欲的に働ける環境を作ることで、単位時間あたりの成果(分子)が増加します。
また、リカレント教育やリスキリング(学び直し)を支援し、個人の能力を高めることも、長期的には生産性向上に直結します。
労働環境の整備(テレワーク・フレックス)
通勤時間の削減や、自分のリズムで働けるフレックスタイム制は、従業員の集中力を高めます。特に育児や介護と仕事を両立する層にとっては、柔軟な働き方こそが最大の生産性向上策となり得ます。
補助金・助成金の活用
生産性向上のための設備投資やIT導入には、国から様々な支援が用意されています。「IT導入補助金」や「業務改善助成金」、「ものづくり補助金」などを活用すれば、コストを抑えながら改革を進めることが可能です。
最新の公募要領を確認し、自社が対象となる制度を積極的に利用しましょう。
労働生産性向上に成功した企業の事例
最後に、取り組みのイメージを掴むための成功事例を紹介します。
事例A:旅館業(アナログ脱却)
予約管理を紙台帳からクラウドシステムへ移行。空いた時間でお客様への接客(付加価値業務)を充実させ、顧客満足度アップと残業ゼロを同時に達成。
事例B:建設業(移動時間の削減)
現場にタブレットを配布し、事務所に戻らずに日報作成や図面確認ができる環境を整備。移動時間を1日平均2時間削減し、工期の短縮に成功。
まとめ
労働生産性を上げることは、単にコストを削減することではありません。社員一人ひとりが「価値ある仕事」に集中できる環境を作り、企業としての利益体質を強化することこそが本質です。
まずは「現状の数値」を計算し、アナログ業務のデジタル化やノンコア業務の削減など、できるところから着実に進めていきましょう。

